ゼロエミ式キノコ栽培マニュアル

キノコの種菌の作り方ついて

原菌を作る(植え替え)

菌の分離に成功した菌糸の植え替え作業です。純粋な菌糸のみを殖やします。植え替えた培地上に雑菌の混入がなくきれいに菌糸が蔓延したらそれが種菌をつくる原菌となります。種菌の原菌とは別に親菌用(それをもとに後日また種菌をつくる)も確保します。

菌を培養する でビンなど表面積の大きい容器を使った場合は、この作業を飛ばして菌を殖やす の工程に進んで種菌を作ることも可能です。


<作業環境>

清潔な場所でできるだけ無菌環境に近づけて行います。

ゼロエミ式無菌作業


<工程1>-原菌用にする培地準備を準備します。

寒天培地(PDA)を主に利用します。オガクズ培地、殻粒培地も利用可能です。

寒天培地 (PDA)

寒天培地に関しては以下のページを参照してください。

ジャガイモ砂糖寒天(PDA)培地の作り方

オガクズ培地

オガクズ米糠

殻粒培地

小麦、大麦、ライ麦などの穀物類を培地とします。コロンビアでは小麦、大麦を使用していましたが(市場で普通に売っているので)、日本ではなかなか手に入らないのではないでしょうか?うちの近所では見かけません。あるのは「押麦」とか「米粒麦」とか精製された麦ばかりです。また、鳥のエサのアワ、ヒエ等も使用可能です。これは比較的身近(スーパー・ホームセンター等)で手に入りやすく、培地調整も簡単です。菌糸生長パワーも抜群です。ただ、食物なのでゼロエミ式理念に反するのと、穀物は栄養あるので培養時、簡易的な場所だとその穀物を狙ってネズミなどが寄ってくるので栽培時の種菌として使う時は注意が必要です。便利で簡単で、とてもよいのですが問題もある培地です。拡大培養(菌を殖やす)ための原菌としては問題は少ないですが、雑菌の混入を若干見落としやすいです。

■使用可能と思われる穀粒

玄米、押麦、米粒麦、鳥のえさ(ミックスシード)皮付き、皮なし、鳩のエサ(トウモロコシ+雑穀)etc このあたりが比較的安くて手に入りやすいものだとおもいます。無料で入手できるものとしてはドングリやネコジャラシの実も使用可能だと思います。

小麦穀粒培地の調整


<工程2>-培地を入れる容器を準備します。

培地を入れる容器は以下のものが利用できます。

PDA培地用容器

平型ビン

試験管は表面積が少ないので向いていません。丸ビンはPDA量が多く必要となってしまいます。シャーレ-は作業環境によっては雑菌の混入に注意が必要です。口の狭い平型ビンが雑菌の混入の危険も少なく、少ない量のPDA量で済みますし効率的です。

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シャーレー

菌の伸張具合、雑菌の混入状態は見やすいですが、作業の際にフタをはずさなければならないので、フタの開閉時間、具合によっては雑菌が混入するおそれがあります。クリーンベンチなどで作業する分には問題ありませんが、ゼロエミ式では設備の悪いところでの作業も想定しているのでシャーレーはイマイチな感じです。ただ、滅菌シャーレーとか培地入りのシャーレーなども日本では売っていますので、これらを利用すると便利です。シャーレーといっても色々な種類がでているので自分にあったものを選ぶとよいと思います。

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オガクズ、殻粒培地用容器

細口ビン(丸型、平型)

こちらは寒天用容器と違い、平型ビンだけでなくノーマルの丸ビン(コーラなど)が使えます。透明でなくともよいですが、やはり中の菌糸の状態をチェックしたいのでなるべくなら透明ビンを使用してください。大きさは小さくても大きくてもかまいませんが、コンタミと失敗率の確率と拡大培養の量とのバランスで各自、適当なビンの大きさを選んでください。簡易無菌箱が小さい場合、あまり大きいのは使い勝手が悪いです。オガクズ培地、穀粒培地は寒天培地にくらべて雑菌の混入に気がつきにくいですが、拡大培養作業が全然楽なので(砕いて振りかけるだけ)自分はいつもこの方法で種菌を生産していました。

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試験管

寒天培地用容器のところで説明した理由と同じで便利は便利です。ただ、試験管は培地があまり入らないのでいっぺんに拡大培養したい場合はちょっと面倒です。しかし、試験管1本から生産できる種菌の数は少ないので、コンタミがあった場合は被害は最小限に抑えられます。ビンを使った場合、そのビンがコンタミしていればすべてのロットがコンタミしてしまいますが、試験管数本から種菌をつくれば、もし、そのうちの数本がコンタミしていたとしても全滅は免れまます。

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PP袋

使えますがガサガサとして次の工程の作業時に不便を感じます。この元菌作りの工程での使用はお勧めできません。

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<工程3>-用意した培地を容器に詰め込みます。

詰めた後は口をテッシュなどで汚れを落とし綿栓をします。

PDA培地

PDA培地を容器に移します。容器ごと適量を割り出し、PDA培地は冷えると固まってしまうので素早くピペット、スポイト、漏斗などを使って作業します。

オガクズ培地、殻粒培地

水分を含んだ調整後のオガクズ培地を細口のビンの詰めるのはちょっと面倒くさいです。手を筒状にしてうまく入れるか、漏斗やペットボトルの口部をカットしたものを利用して詰めます。

小麦穀粒培地作業手順(PP袋:大)

小麦穀粒培地作業手順(PP袋:小)


<工程4>-殺菌します。

培地内に存在する雑菌、バクテリアを殺すため殺菌します。殺菌後は清潔な場所で冷却します。 殺菌方法は 菌を培養する の工程の殺菌方法に準じます。

殺菌方法は以下の3種類があります。

高圧殺菌法

高圧殺菌釜(圧力鍋のでかいやつ)で120度で30分殺菌が基本です。電力式とガス式がありますが、ガス式の方が経済的です。高圧殺菌釜は高価なので扱う量が少ない場合は家庭用の圧力鍋で代用できます。鍋の底に2センチ程度水を張り、培地入りの容器を入れます。容器の口が水につからないように入れてください。(台座を置くとよいですが、小さい圧力鍋などは難しいかもしれません。工夫してください)ピーと噴出しそうになったら火力を調節して30~40分間くらいで殺菌できる思います。ただ鍋によって特性があると思うので自分で実験してコンタミ具合を調べ殺菌時間等をつかむ必要があります。また、培地量、培地種類によっても殺菌時間がかわってきます。殺菌終了後は火を消し、圧を自然に抜いてください。圧がぬけたら容器を取り出し、無菌箱内や清潔な場所に試験管なら斜めに置いて冷却して培地を固めます。

高圧殺菌釜の使い方説明

色々な殺菌釜の紹介

【参考サイト】

【技術分類】1-2-3 基本栽培方法/菌床栽培/殺菌工程

電子レンジ殺菌法

自分は電子レンジが怖いのでオススメはしませんが電子レンジでも殺菌できると思います。使いこなせばかなり便利だと思います。機種やワット数により差があると思うので実験が必要ですが、基本は強で5分、一回切って10分休めてからまた強で5分くらいで殺菌できると思います(PDA培地入り試験管はもっと短時間?要実験)。殺菌時間は容器の大きさ、培地量により大きく変わるとおもいます。また培地が乾燥しやすいです。小さい試験管などをレンジにかけるとかなり乾燥してしまうと思います。培地の水分量を増やすとか殺菌時間を最小限におさえるとか、実験して自分のレンジの殺菌条件をつかむ必要があります。せこいビンを使うと破裂の恐れアリです。また密閉したものはやめてください。恐ろしいです。綿栓でフタをしているので内圧は抜けて大丈夫ですが、綿栓をギュウギュウ詰めは若干危険かもしれません。いずれにせよ注意して作業してください。ここに書いてある通りにして破裂しても責任は持てません。レンジ殺菌法はほとんど実験したことがないので。

電子レンジ

常圧殺菌法

蒸気釜(密閉していない)に培地(試験缶、ビン等)を入れて98度で4から6時間殺菌する方法です。もしくは、一回2.3時間を3日間に分けて殺菌します。釜は鍋でもペール缶でもドラム缶でも使えるので釜の購入費自体はさほどかかりませんが、殺菌時間が長時間にわたるためエネルギーの消費が莫大です。どちらかというと栽培用容器殺菌または大量に種菌を生産する場合に使用する方法です。元菌作りの試験管やらビンを殺菌することもできますが、大した本数ではないのでガス代がもったいないですし、小さい鍋の場合すぐ水が蒸発してしまいますので管理が難しいです。

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<工程5>-菌を移します。

菌糸を殖やすために表面積の広い培地に移植します。

→移植作業手順

PDAや殻粒・オガクズで培養した菌糸から

購入種菌から

購入種菌の菌糸を別のところで培養して純粋化(オガクズを取り除き、コンタミのない菌糸のみの状態にする)します。

(注)わざわざ分離しなくとも購入した種菌は雑菌混入がないと 仮定できますので、多少コンタミの危険性はありますが、購入種菌を直接親菌として拡大培養(種菌生産)することも可能です。ただし、購入種菌の上部(雑菌がいることが多い)の方は捨てる、容器はアルコールで消毒する等の注意は必要です。

購入種菌から直接種菌を作りたい方は「菌を殖やす」のページ


<工程6>-菌を培養します。

菌糸の移植が完了した容器は20度前後(30度以下)で管理して培養します。雑菌、バクテリアに侵されずキノコの菌糸のみが蔓延すれば成功です。

親菌(親株)保管

親菌(親株)とは元菌と同じものですが、元菌を全部使ってしまってはまた一から作業をしなおさなければならないので、元菌用に作ったもののうちから数本、親菌として使わずに保管します。保管場所は冷蔵庫がいいです。後日、種菌を生産するときはその親菌を元にして菌糸を増やし種菌つくりをします。親菌にするのは 雑菌の混入がわかりやすい試験管寒天培地のほうがいいとおもいます。ちょっと乾きやすいですが試験管が場所をとらなくてよいです。ただ、保存期間、保存場 所条件等でやり方が色々とありますので、以下のサイト(特許庁のページ)等で調べてください。

【参考サイト】

【技術分類】4-2 種菌製造/菌株保存

実際的には作った種菌から1本ぬいてそれをまた元菌として利用するといういい加減な方法で生産していました。しかし、移植前に容器のアルコール所毒と、種菌の上部(雑菌がいることが多い)の方は捨てるくらいの注意は必要です。


元菌ができたら以下のページを参考にして種菌を作ります。

菌を殖やす

■面倒くさい方へ

菌を培養するでビンなど表面積の大きい容器を使った場合は、このページの作業を飛ばして直接 菌を殖やす に進むことも可能です。

ただし、この方法だと、種菌生産時に毎回、菌の分離作業(面倒くさい)や種菌を作るための種菌を購入(コストがかかる)しなければならなくなります。余って冷蔵庫などに保管してある購入種菌を使う(コンタミリスクが高い)こともできますが、植え替えて親菌として数本冷蔵庫の中にキープしておいた方が後々便利です。