ゼロエミ式キノコ栽培マニュアル

キノコの種菌について

菌を培養する

ここでは1.購入種菌から、2.子実体から、3.基材から、4.胞子から菌糸を分離して培養して殖やす方法を説明します。


<作業環境>

清潔な場所でできるだけ無菌環境に近づけて行います。

ゼロエミ式無菌作業


<工程1>-菌を分離・発菌させて培養するための培地を作ります。

菌分離用培地を準備します。キノコの菌の分離にはもっとも一般的なPDA培地をここでは使います。

ジャガイモ砂糖寒天(PDA)培地の作り方

1.まず寒天を買っておきましょう。
小さい袋にわかれた寒天(粉状)が便利です。 なければ普通のでかまいません。
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2.じゃがいもを1個用意します(中から大きめのもの)皮をむいて三等分か四等分にしてください。
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3.鍋に水500ミリリットル入れ、その中にジャガイモをいれて30分くらいグツグツ煮ます。(電子レンジでも可だと思います)
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4.煮終わったらジャガイモをとります。(食べましょう)
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5.多分500ミリリットルはないので、不足し分の水をたして500ミリリットルにします。
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6.そこに寒天12~3グラム、砂糖10グラムを入れて、再度煮て溶かします。
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7.すっかり溶けきったら火を消し、ガーゼ等でろ過して不純物を取り除きます。
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8.固まらないうちに試験管やビンにそのろ過液を移し替えて完了です。あとは、それらを殺菌します。
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面倒くさがりなひとは粉を溶かすだけのPDA培地も売っています。コロンビアでは出発前、餞別でいただいた粉末PDAを使っていました。とても便利です。購入したことはまだないですが、以下の会社で 購入できそうです。ボトル入りと少量の小袋入りがあるようです。

アクテクトの粉末培地


他に利用できるもの

寒天がない、手に入らない、そんな場合はあれば無色のゼリーの粉で代用がきくと思います(今度、実験しておきます)。自分は本当に面倒くさがりですから、いつも何か楽に簡単になるものはないかなあと考えたり探したりしています。

この間はもしかしてこれ使えるかもと「こんにゃくゼリー」を使ってみました。そのまま、ビーカーに入れて溶かしたらグチャグチャネチャネチャでどうもなりませんでした。で、水をたしてみたら、殺菌後、固まってくれません(涙)ゼリーとコンニャク芋と砂糖からできているはずですのでいけるような気がするのですが…これが使えたら手ごろな量だし面倒くさくないし万々歳なのですが…実験は続けていきます。

栄養材はヒラタケ類キノコの菌を培養する目的であれば、面倒くさいジャガイモ+砂糖でなくとも、粉モノ(小麦粉など)+砂糖などでもいける気がします(これも実験します)。溶かせば使えるいい栄養錠剤もある気がします。今後もドラッグストア、スーパーで色々チェックしていきます。


<工程2>-PDA培地を入れる容器を準備します。

試験管

そんなに高価でもないですし、入手できるなら便利です。口も細いので、雑菌の混入も防ぎやすいです。菌の分離作業の場合、失敗する確率もあるので失敗しても一本あたりに使う培地量の少ない試験管は便利です。特に野生のキノコから分離する場合は、コンタミ率が高くなるので本数を多くこなす必要があります。斜面培養しますが表面積が少ないので1本の試験管からそんなに多くは拡大培養できません。

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細口平型ガラス瓶

試験管、シャーレーの手の入らない国、地域でもガラス瓶くらい手にはいると思います。コロンビアでは一番入手しやすいタイプのビンで重宝してましたが、日本ではなかなこのタイプのビンがありません。ノーマルの丸ビンですと斜面培養では寒天量が多く必要ですし、ビンを立てて底の方で平面培養すると菌が取り出しにくいです。一方、平らのビンなら横にして寒天培地を流し込むと寒天培地量の節約にもなるし、表面積も大きくとれます。また、拡大培養作業時も、試験管などは片方の手がふさがることが多いですが、このタイプのビンは、横にして置いときながら作業ができます。シャーレーと違い、口が細く、また横向きで置いておく限りは落下菌の混入を最小限に防ぐことができます。簡易な設備で作業する場合にはうってつけの容器です。 培地量が試験管より多く必要なため、失敗率の高い菌の分離作業時に使うより、元菌作り時に使用した方がいいです。

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シャーレー

菌の伸張具合、雑菌の混入状態は見やすいですが、キノコの菌の分離時にフタをはずさなければならないので、フタの開閉時間、具合によっては雑菌が混入するおそれがあります。クリーンベンチなどで作業する分には問題ありませんが、ゼロエミ式では設備の悪いところでの作業も想定しているのでシャーレーはイマイチな感じです。ただ、滅菌シャーレーとか培地入りのシャーレーなども日本では売っていますので、これらを利用すると便利です。シャーレーといっても色々な種類がでているので自分にあったものを選ぶとよいと思います。

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<工程3>-作ったPDA溶液を容器に移し替えます。

PDA培地を試験管、ビン等の容器に移します。容器ごと適量を割り出し、PDA培地は冷えると固まってしまうので素早くピペット、スポイト、漏斗などを使って作業します。

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綿栓を作る

試験管も、ビンも、殺菌する際フタをしなければいけません。 シリコン栓等、色々ありますがここでは一番アナログな綿(脱脂綿可、一応。脱脂じゃないほうがいいです)を使った方法を紹介します。

綿栓の作り方の説明

使い方

試験管、ビンの口に突っ込みます。ゆるからずきつからずくらいの感じがいいです。 栓をしたら殺菌時濡れないようにアルミホイルで綿栓をつつんで輪ゴムでとめます。


<工程4>-殺菌します。

試験管培地内に存在する雑菌、バクテリアを殺すため殺菌します。殺菌後は清潔な場所で試験管を斜めに置いて冷却し、寒天培地を固めます。

殺菌方法は以下の3種類があります。

高圧殺菌法

高圧殺菌釜(圧力鍋のでかいやつ)で120度で30分殺菌が基本です。電力式とガス式がありますが、ガス式の方が経済的です。高圧殺菌釜は高価なので扱う量が少ない場合は家庭用の圧力鍋で代用できます。鍋の底に2センチ程度水を張り、培地入りの容器を入れます。容器の口が水につからないように入れてください。(台座を置くとよいですが、小さい圧力鍋などは難しいかもしれません。工夫してください)ピーと噴出しそうになったら火力を調節して30~40分間くらいで殺菌できる思います。ただ鍋によって特性があると思うので自分で実験してコンタミ具合を調べ殺菌時間等をつかむ必要があります。また、培地量、培地種類によっても殺菌時間がかわってきます。殺菌終了後は火を消し、圧を自然に抜いてください。圧がぬけたら容器を取り出し、無菌箱内や清潔な場所に試験管なら斜めに置いて冷却して培地を固めます。

高圧殺菌釜の使い方説明

色々な殺菌釜の紹介

【参考サイト】

【技術分類】1-2-3 基本栽培方法/菌床栽培/殺菌工程

電子レンジ殺菌法

自分は電子レンジが怖いのでオススメはしませんが電子レンジでも殺菌できると思います。使いこなせばかなり便利だと思います。機種やワット数により差があると思うので実験が必要ですが、基本は強で5分、一回切って10分休めてからまた強で5分くらいで殺菌できると思います(PDA培地入り試験管はもっと短時間?要実験)。殺菌時間は容器の大きさ、培地量により大きく変わるとおもいます。また培地が乾燥しやすいです。小さい試験管などをレンジにかけるとかなり乾燥してしまうと思います。培地の水分量を増やすとか殺菌時間を最小限におさえるとか、実験して自分のレンジの殺菌条件をつかむ必要があります。せこいビンを使うと破裂の恐れアリです。また密閉したものはやめてください。恐ろしいです。綿栓でフタをしているので内圧は抜けて大丈夫ですが、綿栓をギュウギュウ詰めは若干危険かもしれません。いずれにせよ注意して作業してください。ここに書いてある通りにして破裂しても責任は持てません。レンジ殺菌法はほとんど実験したことがないので。

電子レンジ

常圧殺菌法

蒸気釜(密閉していない)に培地(試験缶、ビン等)を入れて98度で4から6時間殺菌する方法です。もしくは、一回2.3時間を3日間に分けて殺菌します。釜は鍋でもペール缶でもドラム缶でも使えるので釜の購入費自体はさほどかかりませんが、殺菌時間が長時間にわたるためエネルギーの消費が莫大です。どちらかというと栽培用容器殺菌または大量に種菌を生産する場合に使用する方法です。元菌作りの試験管やらビンを殺菌することもできますが、大した本数ではないのでガス代がもったいないですし、小さい鍋の場合すぐ水が蒸発してしまいますので管理が難しいです。

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<工程5>-菌を分離(取り出し)ます。

前ページで紹介した菌の入手4方法1.購入種菌から、2.子実体から、3.基材から、4.胞子から菌糸を分離して方法を個別に説明します。

購入種菌から

購入種菌の菌糸を別のところで培養して純粋化(オガクズを取り除き、コンタミのない菌糸のみの状態にする)します。

(注)わざわざ分離しなくとも購入した種菌は雑菌混入がないと 仮定できますので、多少コンタミの危険性はありますが、購入種菌を直接親菌として拡大培養(種菌生産)することも可能です。ただし、購入種菌の上部(雑菌がいることが多い)の方は捨てる、容器はアルコールで消毒する等の注意は必要です。

 購入種菌から直接種菌を作りたい方は「菌を殖やす」のページへ

子実体から

キノコ自体(子実体)から組織分離(キノコの身を切りだす)して菌糸を培養します。分離して培養した菌糸は元になっているキノコと同じ遺伝子を持ったコピーになります。軸の内部は無菌状態なので肉厚のキノコを利用すると成功率が上がります。

基材から

野生のキノコをから菌糸を分離する場合、きれいなキノコを見つけるのが困難な場合があります。萎んでしまっていたり、腐りかけているキノコの子実体から分離してもほとんど失敗します。そのような時はキノコの生えている材から菌を分離することもできます。材の内部は比較的清潔ですので、菌糸のよく蔓延した部分を切り取りって菌を分離します。

胞子から

キノコの胞子はいうなればキノコの卵です。これを培養して発菌させて菌糸を得ることができます。ただ、胞子は元のキノコの子供ですが、コピーではないので遺伝子が違います。いい親の胞子を使っても親のような優秀な菌糸になるわけではありません。


<工程6>-菌糸を培養します。

工程5を終えた試験管は20度前後(30度以下)で管理して培養します。雑菌、バクテリアに侵されずキノコの菌糸のみがPDA培地に蔓延すれば成功です。


菌が培養できたら以下のページを参考にして種菌の元になる菌を作ります。

 元菌を作る